2021/04/30

院長日記

アトピー性皮膚炎と汗

今回は「アトピー性皮膚炎と汗」についてお話しします。

アトピー性皮膚炎は主に「夏」と「冬」に増悪する傾向があります。

なぜ夏に悪化しやすいのか。これは「汗」と大きく関わっているからなのです。

 

汗は体の体温調節をするために出ることはご存知かと思いますが、

皮膚の天然保湿因子の一つでもあります。

冬は汗がたくさん出ないので、皮膚がカサカサしていても夏になると皮膚がしっとりしやすくなることからも理解しやすいことでしょう。

しかし、アトピー性皮膚炎の患者さんでは夏でも皮膚の一部では発汗量が減っており、皮膚が乾燥しやすい状態です。

皮膚の乾燥は皮膚内部に様々なアレルゲンを容易に入れ、炎症を起こします。

 

また汗の中には「抗菌ペプチド」と呼ばれる物質が含まれ、その名の通り皮膚の表面にくっついた病原性のある細菌やカビが増殖しないようにコントロールしています。

気温が上がってくると、細菌やカビの増殖力が高まるのですが、健常な皮膚では適度な汗をかくことにより、「抗菌ペプチド」が働き、皮膚感染症を抑えています。

しかしながら、アトピー性皮膚炎の患者さんでは汗が出にくいため「抗菌ペプチド」も少なく、細菌やカビが皮膚表面で増殖しやすくなります。

例えば、病原性のある細菌の代表である「黄色ブドウ球菌」。

健常な皮膚の人のほとんどは皮膚には検出されないのですが、アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚には常時居座っており、この菌自体も皮膚炎を悪化させるのです。

 

また皮膚には「マラセチア」と呼ばれる誰の皮膚にも常時存在する「カビ」。

これは健常な人では特に悪さをしないカビです。

しかしアトピー性皮膚炎の患者さんでは「抗菌ペプチド」が少ないため、マラセチアが増殖しやすく、かつこのカビが汗と反応するとアレルギー抗原の一つとなります。

発汗が低下しているとはいえ、運動などで発汗作用が高まると、汗の出てくる部位が猛烈に痒くなるのです。

また、アトピー性皮膚炎の患者さんは皮膚全体で発汗量が減少しているのではなく、代償性に多く出ている部分もあります。

ということは、汗の多く出る部位では他よりも汗が濃くなっており、このことも痒みが増す原因の一つなのです。

 

ではこれからの季節のスキンケアーはどうしたら良いでしょう。

まずは、皮膚を清潔に保つことが重要です。

「抗菌ペプチド」が少ない状態であれば、細菌やカビを皮膚表面に増やさないことが大事です。

つまり、毎日お風呂に入ったりシャワー浴をすること。皮膚のバリア機能を弱めないように低刺激性の石鹸を使い、皮膚を洗うこと。

また、この時期も汗が少なく、皮膚が乾燥しやすいことを考えれば、「保湿」は重要です。

保湿剤にも様々なものもありますが、この時期は「ワセリン」はベタつき、お風呂上がりに塗るのは抵抗があるでしょう。

気温が上がってきたら、保湿剤自体が水分を有している「ヘパリン類似物質」や「尿素系」が良いでしょう。

また、汗が出ると痒みが出ることからも、できる限り汗を皮膚に残しておかないようにしましょう。

汗をかいたらシャワー浴をするか、タオルやハンカチを適度に水で濡らして汗を拭き取ると良いでしょう。

 

もちろん、アトピー性皮膚炎の悪化因子は「汗」だけではありません。

皮膚の「バリア機能」の低下が根本にあり、皮膚の内部に様々な因子が侵入して炎症を起こすことが要因です。

昨今ではアトピー性皮膚炎の治療も選択肢が広がってきています。

今回はこれからの季節のアトピー性皮膚炎をどう悪化させずコントロールしていくかの一つをお話ししました。